マーケティング全工程をAI化する電通「AI For Growth 2.0」の全貌

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電通「AI For Growth 2.0」完全解説|マーケティングAI×AIエージェントで全工程を変革

電通グループが発表したAI戦略「AI For Growth 2.0」は、独自の大規模調査データと専門人財の知見をAIに組み込み、マーケティングの全工程を”AIネイティブ化”しようという構想だ。本記事では、電通公式サイトprojects.dentsu.jpの公開情報をもとに、2大AIモデル・AIアプリケーション群・変革支援サービスの全容を解説する。

目次

なぜ今?電通がAIマーケティング戦略を刷新した3つの理由

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出典: https://www.dentsu.co.jp/labo/ai_for_growth/index.html

AIの急速な進化により、マーケティング業界は大きな転換期を迎えている。ChatGPTをはじめとする汎用LLM(大規模言語モデル)を活用したコンテンツ生成ツールや分析ツールは、すでに多くの企業で導入が進んでいる。しかし、汎用モデルをそのまま使うだけでは、マーケティングの現場で求められる精度や専門性に対応しきれない。

電通公式サイトの発表によると、電通グループはこの課題に対し、以下の3つの理由からAI戦略の刷新に踏み切った。

  1. 「業務効率化」と「価値向上・事業成長」の両輪を回す必要性:単なるコスト削減ツールとしてのAI活用ではなく、マーケティングそのものの質を引き上げる”攻め”の戦略が求められている
  2. 汎用AIの限界:汎用LLMでは日本市場特有の消費者インサイト(購買行動の背景にある深い洞察)や業種別の専門知識を十分に反映できない。自社が長年蓄積してきたデータと人的ノウハウをAIと融合させた「専有AIアセット」の構築が差別化の鍵となる
  3. マーケティング全工程の統合的なAI化:企画・調査・制作・顧客体験設計・実行という全フェーズを一気通貫でカバーする必要があり、単点ソリューションの組み合わせでは実現が難しい

この戦略の中核にあるのが、電通独自の調査データ(約15万人・約30業種に対して年2回実施している価値観・メディア接触などの意識調査)や、社内クリエイター・プランナーといった専門人財の知見をAIに学習させるアプローチだ。

待ってくれ、これは単なるAIツール導入じゃなく、電通の資産そのものをAI化する戦略だ。

汎用AIをそのまま使うのではなく、自社が長年蓄積してきたデータと人的ノウハウをLLMにファインチューニング(特定の領域向けに微調整)し、他社には真似できない「専有AIアセット」として構築している点が大きな特徴だ。

AI For Growth 2.0とは何か?─サービス全体像と3つの柱

電通公式サイトの情報によると、AI For Growth 2.0の戦略構造は大きく3つの柱で整理できる。

柱1:クライアントサービス

クライアントの多様な課題を解決するためのAI活用基盤である。マーケティング・コンサルティングにとどまらず、デジタル変革(DX)や事業変革(BX)といった領域までカバーする。AIアプリケーション群とデータを連携し、対話を通じて自律的に最適解を導き出す「統合マーケティングAIエージェント」の開発にも取り組んでおり、グループ内活用にとどまらず顧客向けにも提供を予定している。

柱2:AIアセット

電通グループに蓄積されるAI関連の全資産を指す。データベース・人財・テクノロジーを含み、日々拡充されている。学術・教育機関との提携も進められており、後述する東京大学との共同研究もこの枠組みに含まれる。なお、個々のアセットの詳細については公開情報が限られているため、今後の追加発表に注目したい。

柱3:コーポレート機能(AIガバナンス)

電通グループ グローバルのAI利活用指針「電通グループAI原則」に基づく運用ガイドラインを策定。生成コンテンツの社外提供時には必ずその旨を付記して合意を得る、誤情報の確認を必ず実施する、コンテンツの「粗製乱造」を禁止するといった、責任あるAI活用のルールが明文化されている。

People Model─1億人規模のAIペルソナで市場調査を仮想再現

「AI For Growth 2.0」の中核プロダクトの一つが、独自のAIペルソナモデル「People Model」だ。電通公式サイトによると、以下のような特徴を持つ。

  • 電通が独自構築している大規模調査データをLLMでファインチューニングし、「1億人規模」の高解像度なペルソナを仮想的に再現するAIモデル(同社の公式発表による表現)
  • 従来の限定的なペルソナとは異なり、多人数・多層のペルソナ群を定義可能
  • 時間の制約を受けず、大規模なアンケート調査やマーケットシミュレーションを即座に実施できる
  • 学習データにない未知の設問にも柔軟に対応可能
  • 設問数に制限なく、クリエイティブアイデアの検証も可能
  • 調査対象者の確保が難しい属性についても自由にインタビュー可能
  • 独自のアンケートシステムとして特許出願中

People Modelで何ができるのか?

従来のマーケティングリサーチでは、定量調査に数週間〜数カ月、費用も数百万円単位がかかるのが一般的だった。People Modelはこうしたプロセスを仮想的に再現することで、調査のスピードとコストを大幅に改善する可能性を秘めている。具体的な活用例としては、商品コンセプトの事前テスト、広告クリエイティブの反応予測、ターゲットセグメントの深掘りインタビューなどが挙げられる。

Creative Thinking Model─クリエイターの思考プロセスをAIが学習

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出典: https://aicdn.speedsize.com/3d15a4d0-edd7-419e-98c3-97edcd8b73c9/www.dentsu.co.j

もう一つの中核プロダクトが「Creative Thinking Model(創造的思考モデル)」だ。社内のクリエイター・プランナーなど専門人財の知見・アイデア・思考法を学習させたAIモデルである。

  • 東京大学 次世代知能科学研究センターとの共同研究に基づくとされる(正式な連携名称については電通公式サイトを参照)
  • 2024年8月発表のAI広告コピー生成ツール「AICO2」に続く第2弾として、ビジュアルアイデアの生成も可能に
  • 電通公式発表によると、同社が定義する「従来手法」と比較して、総合評価で約6.9%、インパクトで約12.5%、比喩的表現で約12.8%の向上が確認されたとされる(N=1000, p<0.001)。なお、比較対象となる「従来手法」の詳細な定義は公開情報では明示されていない
  • 専門人財のノウハウをAI化した手法として特許出願中

マーケティング全工程をカバーするAIアプリケーション一覧

電通公式サイトによると、マーケティングの工程ごとに以下のAIツールが用意されている。

TV CM配置からSNS投稿文作成まで、本当にマーケティングの全部入りだ。

● Planning(企画)

  • AIQQQ Flash:事業や商品開発、キャンペーンのアイデアブレストツール

● Research(調査)

  • AIQQQ Talk:AIペルソナへのインタビューが可能
  • People Model:仮想定量調査を実現

● Creative(制作)

  • AICO2:コピーライターの思考を学習したコピーライティングAI
  • Visual Idea Generator:アートディレクターの思考を学習したビジュアルアイデア生成AI

● Journey(顧客体験設計)

  • ∞AI Marketing Hub:カスタマージャーニーを生成するAI
  • Cross Media Planner:ジャーニーに基づくメディアプラン策定AI

● Execution(実行)

  • デジタル広告:∞AI Ads(広告バナー生成・効果予測・改善のPDCA)
  • オウンド・SNS:∞AI LP(LP改善プラン生成)、∞AI Social(SNS投稿文自動作成)
  • TV CM:SHAREST(視聴率予測AI)、RICH FLOW(最適CM配置AI)

マーケティング変革支援サービスの5つの柱

projects.dentsu.jpによると、これらのプロダクトを活用した支援サービスは以下の5領域で展開される。

  1. 構想策定:マーケティング業務・組織および顧客体験の現状を俯瞰的に把握し、AIエージェントと共創する変革ゴール、KGI/KPI、ロードマップ、投資計画などの全体構想を策定
  2. プロセスリエンジニアリング:現在の業務プロセスを解像度高く分析し、人とAIが高め合う効率的で創造的な業務プロセスを設計。導入から定着まで伴走支援
  3. プロフェッショナルAIエージェント開発・導入:企業のニーズやIT環境にフィットするAIエージェントを開発・導入
  4. データ統合・基盤整備:AI活用に最適化されたデータ環境を構築。1stパーティデータとdentsu Japan独自データを組み合わせ、高解像度AIペルソナを構築
  5. 組織・人材改革:AI推進室の立ち上げや組織構造・人員構成の見直し、スキル拡張やマインド変革を支援

顧客向けプロダクト一覧─AIエージェント群とAIペルソナシステム

projects.dentsu.jpでは、顧客向けに提供されるプロダクトとして以下が紹介されている。

  • AI For Growth Marketing Agents:AI戦略プランナー、AI商品プランナー、AIコピーライターなど、専門知見を学習したAIエージェント群。SaaS提供に加え、各種クラウドサービスへの組み込みにも対応
  • AI For Growth Talk:想定顧客をAIで生成・再現し、デプスインタビューを行えるAIペルソナシステム
  • AI For Growth Flash:クリエイターの発想メソッドによる、瞬時に複数のユニークなアイデアを生み出すAIブレインストーミングシステム
  • AI For Growth People Research:1億人規模のAIペルソナ群を活用した仮想定量調査システム(2026年1月以降、順次提供予定)

競合サービスとの比較─電通AI For Growthが選ばれる3つの理由

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AI活用によるマーケティング支援は、すでに多くの企業が参入している領域だ。OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiを活用したコンテンツ生成、HubSpotやSalesforceのAIマーケティング機能など、汎用的なソリューションは選択肢が増え続けている。

しかし、電通の「AI For Growth 2.0」が決定的に異なるのは、以下の3点である。

  1. 独自データ×専門人財の融合:数十年にわたり蓄積してきた約15万人規模の意識調査データと、クリエイター・プランナーという専門人財の思考プロセスそのものをAIモデルに組み込んでいる。公式発表で「1億人規模」と表現されるAIペルソナは、汎用LLMでは再現不可能な日本市場特化の解像度を持つとされる
  2. マーケティング全工程の一気通貫カバー:多くのAIマーケティングツールが「コンテンツ生成」や「データ分析」といった単点ソリューションに留まるのに対し、Planning → Research → Creative → Journey → Executionという全工程をカバーしている
  3. BPR・組織改革まで踏み込む伴走支援:AIツールの導入だけでなく、業務プロセス改革の伴走支援や組織変革まで踏み込む。広告代理業として培った知見があるからこそ可能な提供範囲だろう

また、電通公式サイトによると、東京大学との共同研究体制や、社内でのAI人材育成(G検定取得者1,114人、2024年11月時点の同社発表)も、サービスの信頼性を裏付ける要素といえる。

映像クリエイター視点で見るAI For Growthの活用可能性

筆者はこの「AI For Growth 2.0」に強い関心を持っている。その理由を映像クリエイターとしての実務経験から説明したい。

普段、さまざまなブランドやサービスのPR動画を制作している。クライアントから「こういう動画を作ってほしい」と依頼を受けて撮影・編集するのが基本的な仕事の流れだが、ここ数年で痛感しているのは、ただ言われた通りに動画を作るだけでは、他の制作会社との差別化が難しくなってきているということだ。

映像のクオリティだけで勝負する時代は終わりつつある。高性能なカメラやレンズは誰でも手に入り、映像美だけでクライアントの課題を解決できるわけではない。重要なのは、マーケティングの知識を持って先方と一緒に「効果的な広告動画とは何か」を考えられるクリエイターになることだ。そうすることで、単なる下請けではなくパートナーとしてのポジションを獲得できる。

電通の「AI For Growth」が面白いのは、まさにこの「マーケティングの知識」をAIが補完してくれる可能性があるという点だ。例えば「AI For Growth Talk」でAIペルソナにデプスインタビューを行い、ターゲット層がどんな映像に反応するのかを事前に調査できれば、企画段階からデータに基づいた提案ができる。「AI For Growth Flash」でアイデアブレストを行い、AIの提案から映像コンセプトのヒントを得ることもできるだろう。

また、「People Model」の仮想定量調査で、制作した映像のコンセプトを事前にテストできるとしたら、クリエイターとしての提案力は格段に上がる。「この映像の方向性でターゲットに刺さるのか」を、大規模AIペルソナによるシミュレーションで検証してからクライアントに提案できるわけだ。

最近はAIの進歩が凄まじく、個人でもWebサービスやアプリが作れる時代になった。筆者自身も今流行りのClaude Codeを導入し日々色々と実験的に操作してはいるが、非エンジニアが一から作ると効率的に進められず時間がかかるのが現実だ。個人で使えるリソースにも限りがある以上、電通のような業界最大手が本気で作り込んだサービスを活用して自分のビジネスに組み込む方が、結局は最も効率的だと感じている。

このサービスの良さは、ブランド側(広告主)が自社のマーケティングに使うもよし、筆者のように制作依頼を受けるクリエイター側が自分の提案力を高めるために使うもよし、という汎用性の高さだ。SaaS提供に加えて各種クラウドサービスへの組み込みにも対応しているという点も、既存のワークフローに取り入れやすく期待が持てる。

こんな人におすすめ・総評

「AI For Growth 2.0」は、以下のような方に特に注目してほしいサービスだ。

  • マーケティング部門の責任者:全工程のAIネイティブ化により、ルーチンワークの自動化と創造的業務への集中が実現できる
  • 広告・映像クリエイター:マーケティングの知見をAIで補完し、提案力を強化。クライアントとのパートナーシップを深められる
  • 事業開発・商品企画担当者:1億人規模のAIペルソナによる仮想調査で、アイデアの検証サイクルを劇的に短縮できる
  • DX推進担当者:構想策定からプロセス改革、組織変革まで一貫した伴走支援が受けられる

総評として、このサービスは「マーケティングの民主化を加速させる」ものだと考えられる。従来、電通のような大手代理店に蓄積されていた調査データや専門人財のノウハウは、基本的にその代理店のクライアントしかアクセスできない「閉じた資産」だった。それをAIモデルとして外部にも提供するというのは、業界構造そのものを変える可能性を秘めている。

もちろん、AIが生成した結果をそのまま鵜呑みにするのではなく、最終的な意思決定は人間が行うべきだ。projects.dentsu.jpのストーリーでも「最後の決定は、人間の重要な仕事。意志と情熱は人間だけのものだから」と明確に述べられている。AIはあくまで「高め合う」パートナーであり、代替ではない。

よくある質問(FAQ)

Q. AI For Growth 2.0とは何ですか?

A. 電通グループが推進するAI戦略の最新版です。独自の大規模調査データと社内専門人財の知見をAIに組み込んだ「AIモデル」を核に、マーケティングの企画・調査・制作・顧客体験設計・実行という全工程をAIでカバーする構想です。

Q. People Modelで何ができるのですか?

A. 電通独自の調査データでファインチューニングしたLLMにより、公式発表で「1億人規模」と表現される高解像度なAIペルソナ群を仮想的に再現します。従来の調査では時間やコストの制約で難しかった大規模なアンケート調査やデプスインタビュー、マーケットシミュレーションをAI上で実施できます。

Q. Creative Thinking Modelの特徴は?

A. 社内のクリエイター・プランナーなど専門人財の思考プロセスを学習させたAIモデルです。広告コピーやビジュアルアイデアの生成が可能で、東京大学との共同研究に基づいて開発されています。電通公式発表では、同社が定義する従来手法と比較して複数の評価指標で統計的に有意な向上が確認されたとされています。

Q. どのような企業・担当者が利用対象ですか?

A. マーケティング部門の責任者、広告・映像クリエイター、事業開発・商品企画担当者、DX推進担当者など幅広い層が対象です。SaaS提供に加え各種クラウドサービスへの組み込みにも対応しており、既存のワークフローに統合しやすい設計になっています。

Q. いつから利用できますか?

A. 一部のプロダクト(AI For Growth Marketing Agents、AI For Growth Talk、AI For Growth Flash)はすでに展開が進んでいます。AI For Growth People Researchは2026年1月以降に順次提供予定と発表されています。最新の提供状況は公式サイトでご確認ください。

本記事の情報はソース記事公開時点のものです。最新情報は公式サイトでご確認ください。

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この記事を書いた人

Before It Becomes History - 次の時代に刻まれるものを、今見つける。をテーマに最新ガジェットや次世代AIサービス、発売前のリーク情報などを発信するwebメディア「KINTELA」。
編集長である筆者の本職は、実は映像ディレクター。日々、撮影編集に追われる傍らで、ガジェットやAIにも触れる機会が多く、自身の体験をもとに「KINTELA」を執筆・運営しています。

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