1キーで和音を奏でる新感覚ハーモニー楽器「NOPIA MK1」 – 初回生産分は32時間で完売
ハーモニー(和声)の生成を中心に据えたスタンドアロン電子楽器「NOPIA MK1」が、Kickstarterで大きな注目を集めている。2026年10月7日時点で、目標金額50,000ドルに対して支援総額は1,442,781ドル、達成率は2885%、支援者数は2,216人。NOPIA公式サイトによれば、本体を受け取れる支援枠はキャンペーン開始からわずか32時間で完売(SOLD OUT)した。キャンペーン自体は2026年10月15日まで開催中だが、本体付きの支援枠はすでにすべて埋まっている状態だ。

NOPIA MK1とは – 「ハーモニーの言語で遊ぶ」ための楽器
NOPIA MK1は、アルゼンチン・ブエノスアイレスのチームが手がける電子楽器だ。Kickstarterのカテゴリは「Technology > Sound」。プロジェクトページでは自らを「A semi modular harmony generator(セミモジュラー・ハーモニージェネレーター)」と名乗り、「An instrument that invites you to play with the language of harmony(ハーモニーの言語で遊ぶことへ誘う楽器)」「A love letter to music(音楽へのラブレター)」というメッセージを掲げている。
ここで注意しておきたいのが「セミモジュラー」という言葉だ。シンセサイザーの世界では、パッチケーブルで内部の信号経路を組み替えられる機種をセミモジュラーと呼ぶことが多い。しかしNOPIA MK1の公式情報には、そうしたパッチベイやパッチケーブルによるルーティング変更の記載はない。NOPIA MK1でいう「モジュラー」は、Keys / Bass / Arp / Padという4つの音楽モジュールで構成され、それぞれを内蔵音源で鳴らしたり、モジュールごとにMIDIで外部音源へ振り分けたりできる構造を指していると読むのが自然だろう。
開発チームは「この3年間、このキャンペーンが開発ではなく生産のための資金になるようNopiaを作り込んできた」と述べている。プロジェクトページによれば、2023年にデザインコンテスト向けに公開した最初のプロトタイプ動画が予想外の反響を呼び、そこから複数の試作を経て現在の量産設計にたどり着いたという。つまり、2023年に話題になった初期コンセプトモデルと、今回のNOPIA MK1は別の段階の製品だ。

NOPIA MK1の仕組みと特徴
1つのキーで1つのコード – 「ハーモニーのタイプライター」
NOPIA MK1の中心にあるのが「Chord Builder(コードビルダー)」だ。まずトーナルセンター(調の中心)を決め、各キーを押すとそのキーに対応するコードがまるごと鳴る。公式はこれを「Like a harmony typewriter(ハーモニーのタイプライターのよう)」と表現し、コードを名前ではなく「度数(ディグリー)」として扱う設計だと説明している。7音のスケール外の音も機能的にハーモナイズされるため、全12音のどこを押しても音楽的な役割を持ったコードになる。
鍵盤は1オクターブ分しかない。公式の説明は「ピアノに存在する音はそもそも12音なので、1オクターブあれば半音階全体をカバーできる」というもので、音域はフェーダーとレジスタースイッチで上下させる仕組みだ。
鍵盤はたった1オクターブ。それで全12音のコードをまかなうというのだから、思わず二度見した。
開発の出発点は「ライブ中、手が足りない」という悩みだったという。両手で複雑なコードを押さえていると、フェーダーやフィルターに手を伸ばす余裕がない。1キー=1コードにすることで左手がハーモニーの「舵」になり、右手はストラムやベース、パッドのフェードイン、マスターエフェクトの操作に使える。公式は「エレキギターを弾くときの感覚に近づけたかった」と語っている。

Real ModeとStatic Mode
コードビルダーには2つのモードがある。
- Real Mode – 実際の音名と鍵盤上の位置関係に沿ってコードを扱うモード。公式の例では、トーナルセンターがCメジャーのときにCを弾けばCメジャー、Aを弾けばAマイナーが鳴る。ピアノの知識がある人向けの考え方だ。
- Static Mode – キー(調)を変えても、各コード度数の物理的な位置関係が固定されるモード。公式は全調をE♭メジャー/Cマイナーのレイアウトで表すと説明しており、「Iの和音とVIの和音は、調が変わっても常にまったく同じ位置にある」。
Static Modeについて、開発者は公式動画で「トーナル・マッスルメモリー(tonal muscle memory)」を養うという考え方を語っている。調ごとに指の形を覚え直すのではなく、コード同士の関係そのものを手に覚えさせる発想だ。
Extensions Knobとシフトボタン
Extensions Knobは音色を追加する機能ではない。シンプルな三和音に9thや11thといったコードの拡張音(テンション)を加え、和声の厚みや「色(カラー)」をワンアクションで変えるためのノブだ。さらにコードビルダーの横には専用のシフトボタンがあり、コード内の特定の音を動かしてsusコードや6thコードを作れる。
4つの音源モジュール – Keys / Bass / Arp / Pad
コードビルダーで作ったハーモニーを実際に鳴らすのが、4つの音源モジュールだ。内蔵音源はサンプルベースとバーチャルアナログを組み合わせたハイブリッド構成になっている。
- Keys(サンプルベース) – エレピなど、ピアノ系のサンプル音源が中心。静電容量式マルチタッチセンサー「Strum Plate」で、コードをかき鳴らしたり1音ずつ弾いたりできる。
- Bass(サンプルベース) – 低音担当。ルート音と、基本の三和音に含まれない「Alt」ベース音を切り替えられる。
- Arp(バーチャルアナログのモノシンセ) – コードの構成音を一定のリズムで展開するアルペジエーター。
- Pad – 持続音・アトモスフィア用。バーチャルアナログのポリシンセ(バンクA)と、サンプルベース(バンクB)を選択・組み合わせできる。バンクBにはSlate & Ashのオーケストラライブラリから提供された音色が含まれる。
このほか、テープのワウ・フラッター、サチュレーター、ディレイ、DJスタイルのバイポーラーフィルター、リバーブからなるマスターエフェクトと、内部状態を記録してパラメーターのオートメーションやオーバーダブができる3スロットのLooperを搭載している。Strum Plateとは別にピッチベンド用のタッチセンサーもあり、1本指で±5半音のクロマチックなベンド、2本指でマイクロトーナルなグリッサンドやビブラートをかけられる。

PC不要のスタンドアロン動作と、外部機器との連携
公式FAQによれば、NOPIA MK1は完全なスタンドアロン動作に対応し、パソコンやタブレットなしで演奏・作曲ができる。一方で4系統のTRS MIDI出力を備え、Keys / Bass / Arp / Padをそれぞれ独立したMIDIコントローラーとして外部シンセやDAWへ送れる(Keys出力はマルチチャンネルの汎用出力も兼ねる)。MIDI入力もあり、外部キーボードやシーケンサーからNOPIAを鳴らすことも可能だ。公式はAbleton、Logic、Pro ToolsなどのDAWとの連携もうたっている。
自分のサンプルをUSB-C経由で内部メモリに読み込むこともでき、クロスフェードやループポイントを自動で設定してBassやPadの持続音を一括処理できる「SampleForge」アプリも用意されている。シンセのパッチはブラウザベースのエディターで調整できるという。

NOPIA MK1の主なスペック
Kickstarterのプロジェクトページ、公式FAQ、公式スペック表で確認できた主な仕様は以下のとおり。重量は公式情報に記載がなかった。
- サイズ: 41.5 × 23 × 3.5cm
- 音源: サンプルベース+バーチャルアナログのハイブリッド(Keys / Bass / Arp / Padの4モジュール)
- 動作: 完全スタンドアロン(PC・タブレット不要)
- 電源: USB-C(5V)給電。バッテリー非搭載だが、充電器・モバイルバッテリー・スマートフォンからも給電可能(公式FAQ)
- スピーカー: 非搭載
- オーディオ出力: 1/4インチのステレオ・マスターアウト、1/8インチのAUXアウト(ヘッドホン用。自分にだけ聞こえる専用メトロノーム付き)
- MIDI: TRS MIDI出力×4(モジュールごと)、TRS MIDI入力×2(General In / Clock)、MIDIクロック入出力、USB-C経由のMIDI
- その他の入力: サステインペダル
- 演奏インターフェース: 1オクターブのChord Builder(Real / Static Mode)、Extensions Knob、Strum Plate、ピッチベンド(クロマチック±5半音/マイクロトーナル)、OLEDディスプレイ
- Looper: 3スロット(パラメーターのオートメーション、オーバーダブ対応)
- サンプル読み込み: USB-C経由。SampleForgeアプリでループ処理を一括化
- ファームウェア更新: ブラウザベース、USB経由
- 同梱品: NOPIA本体、2mのUSB-Cケーブル、クイックスタートガイド
- 保証: 1年間の限定保証(譲渡不可)
- 配送: 世界発送に対応
- 出荷開始予定: 2027年5月

NOPIA MK1の支援プランとキャンペーン状況(2026年10月7日時点)
本体付きの支援枠はすべてSOLD OUT
本体を受け取れる一般向けの支援枠は以下の3つ。いずれも数量限定で、2026年10月7日時点ですべて完売している。NOPIA公式サイトでは「SOLD OUT ON KICKSTARTER IN 32 HOURS」と案内されている。
- Super Early Bird:650ドル(MSRP 899ドルから28%OFF)- 支援者300人で完売
- Early Bird:675ドル(同25%OFF)- 支援者400人で完売
- Kickstarter Standard:699ドル(同22%OFF)- 支援者500人で完売
なお、キャンペーン初期には630ドルのCommunity Discount枠も用意されていたが、こちらも受付は終了している。
キャンペーンページは2026年10月15日まで公開されているが、本体付きのリワードはもう選べず、今からKickstarterで本体を手に入れることはできない。通常小売価格(MSRP)は899ドルとされている。
送料は支援額に含まれず、発送が近づいた段階でPledge Managerを通じて回収される。税金や関税は配送先の国によって発生する可能性があり、発送前に金額が提示されたうえで回収される、というのが公式の説明だ。
新興ブランドの初号機で定価899ドル、それが32時間で完売。正直、目を疑った。
キャンペーン達成状況
- 達成率: 2885%(目標金額50,000ドル)
- 支援総額: 1,442,781ドル
- 支援者数: 2,216人
- キャンペーン終了: 2026年10月15日(残り8日)
目標額の約29倍に達する大規模なキャンペーンとなっている。価格帯を考えると、それだけこのコンセプトへの期待が大きいことがうかがえる。もちろん、支援が集まったことと製品の完成度が保証されたことは別の話で、実機の評価は出荷後に見えてくる。
出荷予定とスケジュール面の注意点
出荷開始は2027年5月の予定だ。プロジェクトのリスク欄でも、ハードウェア製品には部品調達、製造リードタイム、品質管理、物流といったリスクがあり、遅延の可能性は常にあると明記されている。チームは生産パートナーの選定や、金型・組み立て・品質管理の計画は済んでいるとしたうえで、予定が動いた場合は理由と影響を真っ先に支援者へ伝えると約束している。量産は今回が初めてなので、スケジュールにはある程度の余裕を見ておきたい。
筆者コメント:映像クリエイター視点の考察
正直に言って、NOPIA MK1の存在を知ったとき、真っ先に頭をよぎったのは「これで映像に使う音を自分で作れるんじゃないか」ということだった。
映像制作を本業としている筆者にとって、SFXやBGMの選定は日常的かつ地味に時間を食う作業だ。普段はEpidemic SoundやArtlistといったライブラリサービスから効果音やBGMをダウンロードして使っている。これらのサービスは非常に優秀で、大半のプロジェクトではイメージに合う素材が見つかる。だが、どうしても「ドンピシャ」の音に出会えない瞬間がある。テンポが微妙にズレている、質感が想定と合わない、もう少しだけダークなニュアンスが欲しい – そういった「あと一歩」のもどかしさは、映像の仕上げに携わったことのある人なら深くうなずいてもらえるはずだ。
ただ、仕様を読み込むほど、NOPIA MK1は足音や衝撃音のような汎用SFXを作る機械ではないことも分かってくる。筆者が現実的に期待しているのは、アンビエントやドローン、ハーモニックなテクスチャー、場面転換に添える短いスティンガー、BGMの下に敷くコードの「ベッド」といった、映像用の短い音楽素材だ。Padモジュールの持続音にマスターエフェクトのテープ感やリバーブを重ね、Looperで重ねていく – その流れで、ライブラリをスクロールし続ける時間の一部を、自分の手で音を組み立てる時間に置き換えられるかもしれない。音楽理論にそこまで精通していない筆者でも、度数ベースで「このコードの次はこれ」と耳で探っていけるのはありがたい。
価格についても正直に触れたい。キャンペーン価格は650〜699ドル、通常価格は899ドル。一般的な小型シンセやグルーヴボックスより明らかに高い価格帯で、新興ブランドの第1号製品としてはかなり強気だ。音源ライブラリと楽器は代替関係にあるわけではないので、サブスクの代わりになるとは考えていない。あくまで既存のライブラリに加えて、自分で音楽素材を作る選択肢が増えるという位置づけだ。その選択肢に899ドルを払う価値があるかは、デモ音源や出荷後のレビューで実際の音を聴いてから判断したい。
そして個人的に惹かれるのが、NOPIA MK1の設計思想だ。これは公式のキャッチコピーではなく筆者の解釈だが、膨大なコードの選択肢を度数と1オクターブの鍵盤に整理し直すやり方は、選択肢を構造化することで創造性を引き出す思想のように感じられる。映像の現場でも、何でもできる環境より、条件が絞られた中で最善を探すほうが独自性のあるアウトプットにつながることは珍しくない。その感覚を楽器という形にしたところに、強く共感している。
NOPIAの公式解説動画と海外リアクション
ここでは開発者Martin Grieco本人による公式動画2本と、第三者によるリアクション動画1本を紹介する。1本目と3本目は2023年の初期コンセプトモデルを扱った動画で、現在のNOPIA MK1とは仕様が異なる点に注意してほしい。再生回数はYouTube Data APIで取得した2026年10月6日時点の値。
① Introducing Nopia(Martin Grieco/2023年5月公開)
チャンネル: Martin Grieco / 再生回数: 7,349,467回(2026年10月6日時点)
NOPIAが最初に大きな注目を集めるきっかけになった動画だ。トーナルセンターを決め、コードを度数として扱うという基本コンセプトはこの時点から一貫している。ただし仕様は現在のMK1とは異なる。プロジェクトページによれば、この動画の公開後、量産に向けて複数のプロトタイプを経て現在の形になった。
② NOPIA MK1(Martin Grieco/2026年9月公開)
チャンネル: Martin Grieco / 再生回数: 250,724回(2026年10月6日時点)
- 約3年の開発を経て、初期プロトタイプから量産版のMK1へ
- スケール外の音も含め、全12音がハーモナイズされる設計
- Real ModeとStatic Modeの2つのモード
- Static Modeで「トーナル・マッスルメモリー」を養うという考え方
- 3スロットのLooperやハイブリッド音源エンジンなどを搭載
現行のNOPIA MK1を紹介する公式動画だ。量産版の仕様を知りたいなら、まずこちらを見るのがいい。
③ First Look at Nopia(Weaver Beats 2/2023年5月公開)
チャンネル: Weaver Beats 2 / 再生回数: 20,530回(2026年10月6日時点)
- 初期コンセプトモデルの外観について、「鍵盤が曲がって見える」「安っぽく見える」「50ドル程度の価値に見える」といった辛口の指摘
- 一方でコンセプト自体は「かなりクール」「興味深い」と肯定的に評価
第三者による率直なリアクションで、2023年当時のコンセプトがどう受け止められたかを知る材料になる。現行のMK1は、無垢材やアルミの筐体、Cherryスイッチを使ったキー機構などを採用した別設計になっており、量産版の品質は出荷後の実機レビューで判断すべきだろう。
NOPIA MK1はこんな人におすすめ

- 和声やコード進行の探索を「体験」として楽しみたい人 – 公式FAQは「理論を知らなくても遊べる」としつつ、機能和声に詳しい人ほど得るものが多いとも書いている。
- ライブで「手が足りない」と感じているエレクトロニック系ミュージシャン – 左手1本でコード進行を担えるのは、まさに開発の出発点になった悩みへの答えだ。
- 手持ちのシンセやDAWにハーモニーの司令塔を加えたい人 – 4系統のTRS MIDI出力で、モジュールごとに別の音源を鳴らせる。
- 映像やゲーム向けに、オリジナルの音楽素材を作りたいクリエイター – アンビエントやパッド系のテクスチャー、短いスティンガーなど、既存ライブラリを補う素材づくりに。
一方で、注意点もはっきりしている。まず価格。通常価格899ドルは、一般的な小型シンセやグルーヴボックスより高い価格帯だ。次に、本体付きの支援枠はすでに完売しており、今からKickstarterで手に入れることはできない。そして出荷開始は2027年5月予定で、初の量産ロットになる。スピーカーとバッテリーは非搭載なので、ヘッドホンやモニター、給電手段は別に用意する必要がある。
コード演奏を中心にしたハードウェアは、Telepathic Instruments Orchidのような先行例もあり、NOPIAだけのジャンルというわけではない。それでも、度数ベースのインターフェース、Real / Static Modeの切り替え、4つの内蔵音源モジュールとモジュールごとのMIDI出力という組み合わせは、かなり独自性の高いアプローチだ。まだ数少ないこのジャンルに、2,000人を超える支援者が集まった。量産版がどんな音と手触りで届くのか、出荷後のレビューが今から楽しみだ。
支援金額・達成率・支援者数は2026年10月7日時点、YouTube再生回数は2026年10月6日時点のものです。
NOPIA MK1 – Kickstarterプロジェクトページ / NOPIA公式サイト
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この記事について
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